くろみつの隅の囁き

文化系全般を勉強中。2〜3次元までミーハー気質。又吉ごととか。

綾部の「格差」キャラと又吉との安定感。

私の大好きなコンビが「格差」ネタで盛り上がっている。
芥川賞を受賞した又吉。それに対して相方は…という意味合いで。
「綾部が又吉に嫉妬している」なんていう記事もあれば、「綾部は又吉を尊敬している」なんていう記事もある。ある記事は、本を出版し売れた芸人とそのコンビの例として麒麟・ロザン等を挙げた上で、その2組に比べコンビ仲も含めピースの分裂の可能性が高いと述べていた。
その理由として、(他2組と比べて)同期だけど結成が後年である事、出身地もバラバラで年齢も3つ異なるなど共通点が非常に少ない事を挙げ、
コンビとして活動しているのすら不思議だ、というような事すら書かれていたから驚いた。(共通点が多ければ上手くいくなんて事は全く無いと思うんだけど…)


とはいえ、実際綾部が又吉の芥川賞受賞をどう受け止めているかなんて綾部本人しか知らないわけで、そんな色々憶測や疑問を感じる推測を参考にするくらいなら、芥川賞を取った芸人の相方として綾部がどういう反応をするか、芸人としてどういうスタンスを取るのかが、1番信頼できるソースだと思った。


そこで生まれた「格差」キャラ。
又吉を「大先生」と呼んだり、自らをアシスタントと名乗ったり。
記者のインタビューなどでも格差に対する自虐のような発言をする綾部。

相方の快挙について尋ねられた際、できる反応は色々あったと思う。
率直に大方の人が予測、あるいは期待するように激しく悔しがるとか、僻んで笑いを取るとか、見栄を張って天狗キャラを強調するとか。
そんな中で綾部はこれまでの世間の「天狗」イメージとは逆の、相方を先生として敬う、そして敬いながらボケて又吉にツッコミをもらう
キャラを作り上げた。(この一連の騒動に対するやり取りでは、基本綾部がボケで又吉がツッコミな所も面白い。)

そこで想像してみたけれど、だいたい受賞前後にコンビで呼ばれた仕事は、オファー側はもちろん芥川賞について言及してくれる事、とりわけコンビで呼ぶからには綾部に何らかの相方の芥川賞への反応を期待しているわけで。(翌日のネットニュースになるような。)芥川賞なんかなかったように振舞う事はできない。でも又吉自身今回の受賞に関して嬉しいとは言うもののすごく謙虚な姿勢だから、自ら芥川賞について綾部にアピールする流れはおかしい。となると番組などで共演者や司会が話題を絶対に振ってくる場合は別として、綾部から又吉に芥川賞について触れていくのがベストなわけで。そこで芸人の冗談としてとわかっていても僻みや嫉妬をむき出しにしたキャラを見るよりは、あの「天狗」だった綾部が又吉を先生と呼び立てている方がなんだか面白いし、見ていてギスギスしない。しかもキャラが芝居がかっているから、もうそのキャラが出た時点で即席コントを見ている気分になる。
つまり、格差をネタにしているのに、なぜかすごーーく「活き活き」している(笑)
諦めや卑下、もうこう立ち回るしかない、という雰囲気は全く感じられず。
まるで「ビジネスチャンス来た!」とでも言いそうなくらい芸人としてのキャラを立てている。その姿を見てこの人が又吉の相方で良かったと心から思った。




そしてそれを本人の言葉でで再確認する事ができたのが、9月8日のスポ日のインタビュー記事。以下、あまりに素敵で見習いたい綾部の一部をば。

●又吉の芥川賞受賞について

「プラスでしかない出来事。芥川賞作家は何人もいるけど、なにせ“芥川賞作家の相方”は僕しかいないんですから」

「率直に言えば、大金が入るのがうらやましい。それだけですよ」

「僕からすれば、サッカー選手がクリケットで脚光を浴びたようなもの。お笑いのことなクソーッとなってたかもしれないですが。まして、クリケットの道具を磨いたりしてるのを、そばで見てきたわけですから」

僕が思う以上に本が好きだったんだなと思うし、努力も見える以上のことをやってたんだなと思う。

このサッカーとクリケットの例えがすごくいいなと思った。というより、綾部はコンビ内でどっちが売れてる、売れてないとか、小さな矜持に一喜一憂するような人では無いんだな。又吉が以前芥川賞候補になる前に、前に三島由紀夫賞の候補に挙がり、それを逃した。その時多くの人は僅差だった事を評価したりする中、相方の綾部のみ、「獲らなきゃ意味ねえんだよ。ビジネスになんねえだろ」と言ったという。
ピースは2010年のKOCで準優勝をしたものの、大きな優勝経験は無い。十分だと多くの人言ってもらっても、「準VとVには凄い差があることを知っている」
と。それで1位に拘っていたとは知らなかった。「天狗」って言葉は自惚れる、得意になるって意味で使われるけれど、準Vに満足していない姿勢だけでも
本当は天狗じゃないよな〜とは思う。もちろんそれだって綾部が持っている1つの大切な芸人としてのキャラなんだけど。


●格差と今後の活動について
ここでも綾部のスポーツに例える言葉は続く。

ウチはいい意味で、個人プレーの融合。サッカーで言えば、完全なるクラブチームなんです

お互い違うところで活動をしつつ、これで僕が演技の新人賞、とかなったら、とんでもないコンビでしょ。格差なんてあっていいし、自分がそこを埋めていければ。

“ゲームメーカー”として、この展開はやりがいがあります。僕が格差を縮めていくのもいいだろうし、逆にもっと下がってもいい。今、僕がAV嬢とラブホテル行ったり、熟女との温泉デートを撮られたら超おもしろいでしょ!?それどころじゃねえだろって

国でもクラブでも飛び抜けている人が一緒にやるのが一番楽しい。僕らもそんな存在に憧れる。僕らはまだ個人プレーですが、結果的に“ピースという国旗”を掲げられるようになるのがベストですね。

思っていた以上に、自分や自分のキャラ、ピース自体を世間の目から客観視する人だと思った。格差=危機という大方の認識を裏切り、格差=チャンス・埋めても面白いし広げても面白いもの、という考えが、決して非現実的なポジティブではなくて、確かにそうだなと思える捉え方。語っている野望の規模は確かに大きく、それこそ天狗だと思われるかもしれないけれど、冷静に自分の立場を客観視しつつ、できない事や比較で周囲を固めていくのではなく、チャンスがないか常にギラギラしている。劇場中心の頃のお兄さんキャラと比べ最近は天狗や熟女や胸毛や嫌われキャラやら、芸人としての仕事だとわかっていても綾部は落とされて笑いを取る空気になる事が多かったから、綾部単体の出演番組はあまりチェックしなかったけれど。この記事を読んで安心して見れるかもしれないと思った。

又吉が芥川賞の候補に挙がった辺りから、記者からの質問でよく「相方の綾部」という言葉を使って綾部の話題を出していた。だいたいそこで笑いをとっていて、笑いを取った場所は映像としてカットされにくいし、よくTVでも流れていた。それで又吉単体だけでなく、芥川賞に対する綾部の反応もクローズアップされるようになった気もする。
一方で、芥川賞の受賞をだいたいTVやイベントに出演した際は司会者なり出演者がすごいね、と褒めてくる。一方的な賞賛に対しては「ありがとうございます」とか「嬉しいです」とかしか言えない又吉に対して、綾部が「先生とアシスタント」「印税の視聴者プレゼント」「お金の使い道」などのボケを投下する事で、ただの賞賛を笑いに変える事もできていて。又吉がソロで出る事の方が多いけれど、やっぱりコンビっていいなと思った。


***

お笑い芸人は一般的にはコンビが多く。漫才でもコントでも、だいたい1人がボケで1人がツッコミ。とはいえ売れ方も芸風も千差万別、そして売れた後の芸風がどう変わっていくかもそれぞれ異なる。ほんの一部のベテラン芸人を除き、一時的に激売れしたものの徐々にメディア露出が減り、気がつくとほとんど見かける事もなく、時折今あの人何やってるのかな、なんて思い出す芸人は山程いる。というかその流れはとても多い。

だって世の中には流行りがある。
音楽は何度でも同じ曲を聴く人がいるし、流行りはあれど聴き手がその音楽を初めて聴いたならばいくらでも新鮮に楽しむ事ができる。でも芸人は違う。
売れる芸人は一握り、そして売れたって生涯芸人として売れ続ける人なんて更に一握り。しかもその「売れ続ける」というのは、同じ漫才やコントとしての芸が人気であり続けるのではなく。どちらかと言うとコントや漫才よりもバラエティのMCや、気の利いたボケやツッコミができるレギュラーのコメンテーターとして売れ続ける芸人が多い。

そうやって厳しい世界を生き抜いてMCやコメンテーターとしてある程度安定的に売れ続けたとしても。今度は徐々にコンビ格差が生じてきて、それをネタにされたり(或いは自らネタにしたり)することがある。
コンビとして漫才やコントで売れたのだとしても、そのブレイクにより出演するバラエティ番組は、ネタを披露するのでなければ2人である必要は全く無い。ネタを披露する番組なんてそんなに多くあるわけではない。そしてメディア露出の差がコンビ格差として徐々に認識されていく。

売れている方は頻繁にTV露出をし、顔は活き活きとしている。実際売れているだけあってその番組に合ったコメントをし、ボケをし、あるいは共演者にツッコミをしてその場を面白くする。一方で徐々に番組に呼ばれなくなった相方は忘れられる。たまに思い出されても格差をネタに笑いを取るくらいで、どことなくネタに仕切れない感情が浮かんでいるように感じる事がある。そう考えたら私はそういう冗談をは笑うことができない。でもコンビが同じくらい同じような仕事でずっと売れ続けるなんて事は、コンビとしての漫才やコントを中心にやって売れ続けているわけではない時点でほとんど避けられない事で。
だから格差ネタの笑いはあまり好きじゃなかった。そういう格差ネタをしてる時点で、売れてる方が売れてない相方を(勿論ネタとしてだけど)揶揄するとか、売れてない方が自虐的にネタにするとか、その時にはもう既にコンビとしての仕事はかなり現実として減ってからの事だから。
でも、綾部が「格差=チャンス」と捉えている事を知れたので、この格差ネタを微笑ましく見ていられそうな日々です。